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EXPO2025 いのち動的平衡館-福岡伸一/橋本尚樹

DYNAMIC EQUILIBRIUM OF LIFE - Shin-ichi Fukuoka - Naoki Hashimoto
DYNAMIC EQUILIBRIUM OF LIFE 2025 EXPO2025
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いのち動的平衡館は、万博の中心「シグネチャーゾーン」に置かれた、生物学の概念を空間化する試み。
生物学者・福岡伸一氏が提唱する生命における動的平衡(生物は、自らを構成する要素を絶えず分解し、同時に新しい要素を合成することで、全体として恒常性を保ち続ける状態)を建築化した。設計は橋本尚樹氏(NHA)。

建築は「エンブリオ」と名づけられ、ペールピンクの膜屋根が大地に触れる寸前で浮遊する。リング状の鋼管と格子ケーブルによるテンション構造は、内部に柱を一本も持たず、25m超の無柱空間を成立させる。張力を段階的に導入して形状を追い込み、最小の部材で最大の空間効率を得ることで、資材とCO2の削減にも応える。軽くしなやかな屋根は風と光に応じて表情を変え、夜間は穏やかなライティングが曲面の連なりを強調する。

エンブリオとは生命発生の初期段階のこと。パビリオンは生命を包む一枚の薄い膜のように、ふわりと大地に降り立つ。
ケーブル張力と膜屋根で実現した無柱大空間。

展示は「いのちを知る」。プロローグでは、破壊と再生の均衡としての動的平衡を短い映像とテキストで導入し、来場者の感覚を暗順応へ誘う。中心にはLED 320,000球を立体配列したシアター「クラスラ」が置かれ、微小な光粒による巨大な演算で38億年の生命史を描出する。個の自己保存だけでなく、共生や協力が進化を駆動してきた「利他の生命史」を、音と光のフィードバックで体感させる構成。環状に立ち上がる観覧場は誰もが同じ中心を共有し、建築の「ひとつながりの膜」と呼応して、来場者の視線を一つの現象へと集中させる。

38億年の生命史が映し出されるクラスラ。

エピローグで福岡伸一氏が語るのは、有限性を前提とする生命の輝きと、壊しながら作り直す営みへのまなざし。「動的平衡の中では、死でさえも利他である_」という言葉が強く印象に残る。
そして建築は展示の背景ではなく、同じ哲学を別の表現で語るもう一つのテキストとなる。
膜屋根とケーブルの平衡状態は、生命が自己と環境の交換で姿を保つ動的平衡の空間に落とし込んだ比喩的表現であり、展示の中核装置を包むワンルーム構成は、個別の経験を共通の中心に重ね合わせる。結果として、来場者は視覚と身体尺度の両方で「いのち」を学び直す。器と内容が一体でテーマを語る、このパビリオンの統合度こそが最大の見どころと言える。

PAGE INFO
公開日: 2025/9/28 撮影: 2025/4,9

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