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EXPO2025 null2-落合陽一/豊田啓介(NOIZ)

null2 - Yoichi Ochiai/Keisuke Toyota(NOIZ)
null2 2025 - NOIZ EXPO2025
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大阪・関西万博シグネチャーエリアの"動く建築"null2
プログラミング用語のnull(値のない状態)から着想し、空から生まれて空に還る「空即是色色即是空」の風景を空2=null2として再定義した。
テーマは「いのちを磨く」。自己と世界の境界を問い直す体験が直結する。
建築設計はNOIZ+デザイン・落合陽一氏、外装開発は太陽工業、構造はArupが担う。

伸縮する鏡状の立方体外装がゆらぎ、クジラの鳴き声のように低く唸り、くぼんだ"目"が渦を巻く。鏡面膜は周囲の色と光を取り込み、無形の存在が環境を自らに吸収するかのように、nullを現出させる。
ボクセル(2m/4m/8m)を単位とした立方体の分棟的な構成からなる建築であるが、その域を超えた不思議な装置がnull2

立方体が積層するnull2

「音・光・振動」を加えた建築。

外装は鏡を再発明するというコンセプトのもと、金属の硬質さと布の柔らかさを併せ持つ外装膜で構成された可変ファサードを採用。約98%の反射率を持つ鏡面膜材が周囲の景観光を再配分。青空や夕景、目の前で開催されるアオと夜の虹のパレードや花火の光と音を取り込む。
鏡面外装は、中央のくぼみをもつ「ホルン型」とフラットな「平面型」を組み合わせている。ホルン型の湾曲によって視点に応じて映り込みが変化し、平面型の部位は表面がさざ波のように揺らぐことで反射像を意図的にゆがめる。両者の相互作用により、外観そのものが常に変化して見える「動的な建築」を成立させた。内部側からは、プログラム制御のロボットアームで押す・叩く・引くといった操作を行い、局所的な変形を生成できるよう設計されている。

風による微振動やロボットアームの制御により表皮が呼吸するように撓み、周囲の景観や来場者を映し込みながら風景そのものを変換する。

内観は鏡面床・天井のLED環境で構成され、来場者はMirrored Bodyアプリで生成した自身のデジタル身体と相互に作用する。動線は展示室とビューイング室の二系統で、靴を脱ぐ展示室と車いす等に配慮した鑑賞環境を併置。
鏡という古くて新しいメディアを通じて自分と出会い直す体験に落とし込んでいる。

内部 (cc)Yoichi Ochiai
人とテクノロジーの関係を対数的時間軸で俯瞰し、蝶・鏡・剣・埴輪・浮世絵・能・複製芸術などの象徴を通じて「表現と記号」の連続性を示す。併せて現代芸術の位置づけを問い、観客に歴史的・哲学的省察を促す静的展示。
茶の精神や曼荼羅的空間の概念を取り入れた茶室。ロボットアームも設置されている。

null2は、会場中央のシグネチャーゾーンに位置し、外装の鏡像は遠景からも象徴的なランドマークとなっている。
最新の外装膜技術とロボティクス、映像・音響・アプリ連携を束ね、建築を「接空間」として拡張する試みは、万博という一時的都市における建築とメディアの統合モデルを提示した。
万博内でも指折りの人気パビリオンとなり、ウォークスルーモードなど、より多くの来場者に触れてもらう施策は講じられたものの、体験できない人も少なくなかった。そこで「ぬるぬるのお引越」クラウドファンディングを実施。解体後に再設計・再構築したうえでの公開を目指す。

「null」に大人も子供も目を奪われる。
「さようなら」は始まりである。クラウンドファンディングは好調で、null2の再生が実現することを期待したい。

null2はSDGsを前景化する万博にあって無邪気に未来を夢見られる外観と、リアル/バーチャルの狭間で新たな生命観を提示する内部を一体化させたパビリオン。誰も見たことのない建築がこの時代の万博で実現したことの意義は大きい。

PAGE INFO
公開日: 2025/10/15 撮影: 2025/4,5,6,8,9,10

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